小児科診察室より一言 No.1

小児科診察室より一言 No.1

病院の中に入ったとたんに大きな声で泣く子供さんがいます。診察中も大声で泣き、病院を出るまで泣き続けるということも珍しい話ではありません。お母さんは、周りの目を気にしながらその大声に耐えなければなりません。医者の説明なんかゆっくり聞いている余裕などあるはずはありません。「どうして自分の子供だけなの。」とあれこれ考えているうちに、すっかり疲れてしまって、子供を病院に連れて行くのが苦痛になってしまうこともあるでしょう。

そのような経験をされているお母さん方、そんなことで決して悩まないでください。それは、単に、子供さんの個性なのです。しかもその怖がりという個性は、将来とても大切なものになるかもしれないものなのです。

泣くタイミングも、病院に入るや否やすぐに泣き出す子供、診察室に入った瞬間から泣き出す子供、診察を始めたとたんに泣き出す子供と様々です。泣く子供にとっては、医者はとても怖い存在で、何をされるのだろうかと子供なりに色々考えているのです。「何もしないからね。」と言葉で説明しても、だめです。怖いものは怖いのです。

でも診察中に泣き続ける子供は、単に泣いているばかりではありません。泣きながらも、全神経を集中させて、自分が何をされているのか意外と冷静に観察しているのです。何度も同じことを繰り返しているうちに、「この人は、自分に危害を加える人ではない。」とはっきりと判る時が来るのです。

それは、突然やってきます。診察室で向かい合ったとき、今までとは違う穏やかな表情を見せてくれます。その時が、やっと信用してもらえた瞬間なのです。何度経験しても、その表情を見た時は、嬉しいものです。「小児科医になって良かった。」と思える瞬間でもあります。

「心から信用するまで時間は懸かるけれども、いったん信用すれば、大きく心を開いて見せる」この性格も、すばらしいものと思いませんか。